Cp.14 - Dendritic spike propagation

樹状突起で発生したスパイクは細胞体,軸索まで伝搬しにくい.ただしいくつかの条件のもとでは順伝搬が起こりうる.

※ この章ではFig. 14.6を参照する点が多々ある.

  • 樹状突起スパイクが細胞体まで到達できるかどうかは,樹状突起の形態,チャネル密度,興奮/抑制シナプスの時空間分布を含むいくつかの要素に依存する(Segev & Rall, 1998).
  • 小さな直径の樹状突起の枝は大きな直径のそれより高い入力インピーダンスを持ち,また相対的に小さなシナプスコンダクタンスによってでも樹状突起スパイク発生のための閾値に達しやすい(Nicholson et al., 2006).小さな樹状突起から大きな樹状突起へと樹状突起スパイクが伝搬するとき,それが失敗する傾向がある理由は,大きな樹状突起閾値まで脱分極させるにはより多くの電流が必要とされるためである*1.たとえ娘枝と親枝が同じ径であったとしても,分岐点では同じ径の枝を二本(親枝一本ともう一方の娘枝一本)を興奮させないといけないため,樹状突起スパイク伝搬は失敗しやすい*2
  • 錐体細胞樹状突起スパイク伝搬における放線斜上分岐の影響は,スパイク発生箇所と斜上分枝の興奮性に依存する.樹状突起スパイクがmain apical dendriteを伝搬してきた時に,斜上分枝が強い興奮性を持つか弱い興奮性を持つかに依存して スパイクの順伝搬を抑圧または亢進する可能性がある*3
  • 抑制性シナプス入力はCa2+スパイクに影響することが示されている.海馬の細胞では,スパイク発生抑制の効果は抑制性シナプス入力の位置に依存する.樹状突起への(抑制)入力は樹状突起Ca2+スパイクを抑制する一方,傍細胞体抑制は細胞体の連続発火を抑圧する(Miles et al., 1996).皮質V層錐体細胞では,distal dendriteでのCa2+スパイクは,抑制性入力による過分極,短絡によってだけでなく,樹状突起のCa2+チャネルのGABABレセプターによって仲介される抑制によっても抑圧される(Perez-Garci et al., 2006).
  • in vivoでの活動電位の伝搬(backpropagation)と樹状突起スパイク(forward-propagation)がin vitroでの状況と同じかどうかはかなり重要な問いである.明確な答えはまだ明らかではないが,Ca2+イメージングと電位記録によって,in vivoでもbackpropagationとCa2+スパイクが観察されている(Kamondi et al., 1998; Walters et al., 2003).加えてin vitroでのdynamic clampを用いた実験では,樹状突起の興奮性が活動電位発生に顕著な影響を与えることが示されている(Williams, 2004).
  • 他にも発火履歴,脳の状態(brain state),内的な膜特性の可塑性がスパイクの順伝搬,逆伝搬を変化させることが報告されている.
    • backpropagationは樹状突起のNa+チャネルを不活性化することで,樹状突起スパイクの発生を減少させる(Golding & Spruston, 1998).
    • CA1錐体細胞で,ムスカリン受容体の活性化がbackpropagationを増加させる(Tsubokawa & Ross, 1997).
    • シナプス可塑性は,A-type K+チャネル活性が減少して樹状突起の興奮性が増すことによって引き起こされるかもしれない(Frick et al., 2004).

*1:Fig. 14.6B1参照

*2:Fig. 14.6B2参照

*3:Fig. 14.6B3参照