Cp.14 - Dendritic spikes and synaptic integration

もしスパイクが樹状突起で起きるなら,樹状突起のintegrative powerは最小化されるように思われる.なぜならば,(これまでのセクションで議論してきた)興奮/抑制を含む多くの時空間相互作用が,少数の興奮性入力によって起こる樹状突起スパイク発生によって否定されてしまうかもしれないからだ.

  • Lorente de Nó,Condourisら(1959)は『樹状突起にスパイクは発生するが,細胞体まで伝わらない』と予測した.樹状突起スパイクの効果はいくつかのシナプス入力と連合して脱分極を増加させることであって,必ずしも活動電位をトリガーするものでないかもしれない.
  • 個々の樹状突起の枝はそれぞれが樹状突起スパイクを発生させることができる,計算素子として振舞っているかもしれない.はじめ理論的な予測(Archie & Mel, 2000; Poirazi et al., 2003)がなされ,現在ではその可能性を示唆する実験データが少なからず報告されている.

  ■ Fig. 14.9 各枝での樹状突起スパイク発生は樹状突起統合の多層モデルを示唆する.

    • CA1錐体細胞細胞体から電位記録.caged-glutamateを用いたuncaing刺激.尖頭樹状突起のひとつの枝で,distributed(刺激点が広範に広がる)とclustered(刺激点が集中)のふたつのパターンで刺激する.各刺激の間隔は1ms.
      • A: 上:distributed刺激とclustered刺激で得られた膜電位変化.刺激が進んでいくと得られるレスポンスが増大する.下:それぞれの刺激パターンで得られた膜電位変化データに対して,一次微分した.
      • B: CA1錐体細胞斜上放線樹状突起の刺激点を示した図.赤点がdistributed,緑点がclusteredの刺激パターンでの刺激点.番号は刺激順を示す.
      • C: distributed,clustered各刺激による応答の予測/実測曲線.
      • D: Polskyら(2004)による発見の模式図.上:ふたつのシナプスがひとつの枝に乗っているとき,細胞体でのEPSP加算はsupralinearになる.下:ふたつのシナプスが別々の枝に乗っているとき,細胞体でのEPSP加算はほぼ線形になる.
      • E: 再構築した皮質V層錐体細胞(左)と三層モデルの模式図(右; Häusser & Mel(2003)による).赤の枝は尖頭樹状突起遠位部への入力,青の枝は傍細胞部への入力を示す.これらの入力どちらもが,ネットワークモデルの第一層を構成しており,それぞれの枝がAで示したような非線形加算処理を行う(シグモイド曲線が書かれた円がそれを示している).第一層の出力はふたつの統合領域に入力する.ひとつは傍細胞部の枝に近い部分(例えば細胞体,藍色で示した部分),ひとつは遠位尖頭樹状突起部に近い部分(例えば尖頭樹状突起のスパイク起始部,紫で示した部分)である.これら統合領域はネットワークモデルの第二層を構成する(シグモイド付きの大きな円で示す).第三層(図には示されていない)は軸索の活動電位起始部である.グレーの円は層と層の接続を表す.
  • 樹状突起の異なる部分をそれぞれターゲットとするシナプス入力同士が,興味深い方法で統合されているかもしれない.CA1錐体細胞において,尖頭樹状突起遠位部に特異的に投射している貫通線維入力の活性化は,尖頭樹状突起近位部に投射するシェファー側枝入力の活性化によって増幅されて細胞体,軸索まで伝搬する樹状突起スパイクを発生する(Jarsky et al., 2005).

  ■ Fig.14.10 シナプス入力の脱分極による樹状突起スパイク伝搬のゲーティング

    • NEURONを用いたシミュレーション.樹状突起の興奮性が低い海馬CA1錐体細胞モデルを用いた.
      • A: perforant path(PP)のシナプスの10%を活性化させたときの脱分極のピーク時のカラーマップと樹状突起膜電位変化のプロット.樹状突起遠位部に樹状突起スパイクが発生しているが,細胞体までは伝搬しない.
      • B: 同様にschafer collateral(SC)のシナプス3%を活性化させた.SCはより細胞体に近い部分で尖頭樹状突起シナプスを形成している.近位部ではEPSPが観察された.
      • C: PPのシナプスを10%,SCのシナプスを3%同時に活性化させたとき.遠位部で起きた樹状突起スパイクは近位部のシナプス入力によるEPSPによって消失することなく伝搬し,細胞体を発火させる.