ニューロンの生物物理 6-3 神経応答の可塑性

Piared-pulse facilitation

  • 短期可塑性の代表.piared-pulse ratio(1発目の応答の大きさに対する2発目の応答の大きさ)は放出確率の指標として用いられる.
  • piared-pulse ratio = 大;放出確率 = 小
  • piared-pulse ratio = 小;放出確率 = 大

Long-Term Potentiation(LTP)

  • 意外なことにLTPの存在が初めて示されたのはin vivoのウサギ,海馬歯状回顆粒細胞で見つかった(1966).
  • 1975年になると,スライス標本でもLTPが起こることが報告され,スライスを用いたLTP研究が加速した.
  • LTP誘起前後でfield-EPSPの傾きとfield-APの振幅の関係を比較すると,誘起後には同じ傾きのEPSPに対してより大きな振幅の活動電位が発生する.これをE-S増強という.

海馬CA1のLTPの性質(テタヌス刺激の場合)

  1. 共同性:まとまった数の入力線維が同時に興奮する必要がある.
  2. 連合性:弱い入力でも,単体でLTPを起こす強い入力と同時に入力されるとLTPが起きる.
  3. 入力特異性:テタヌス入力時に入力されなかったシナプスにはLTPは起こらない.
  4. Ca2+依存性:細胞内Ca2+濃度上昇がLTP形成に重要.
  5. NMDA受容体依存性:NMDAチャネルの活性化が重要.
    • テタヌス刺激の他に,シータバーストやヘブ型プロトコル(pre/postの同時入力)でもLTPは誘導される.

細胞内Ca2+濃度上昇がLTPを誘起する
細胞内Ca2+流入をもたらす経路は主に3つ.

  1. NMDAチャネルから
  2. 電位依存性Ca2+チャネルから
  3. 細胞内Ca2+ストアから

ただしどこからのCa2+流入が重要かはシナプスの種類,誘起プロトコルに依って異なるらしい.

NMDAチャネル依存性LTP
NMDAチャネルの存在が,ヘブの言うところの『同時性』の検出に役立つと考えられている.

NMDAチャネル非依存性LTP

  • NMDAチャネルをブロックしても誘導されるLTPも存在する.L-type VDCCのブロックで消失する.
  • 歯状回顆粒細胞ではNMDAチャネル阻害下でも,LTPが誘導されるらしい.

LTPはシナプスのどちら側の現象か?

  • 当初シナプス前説が有力であったが,サイレントシナプスの発見によりシナプス後説が現在では有力視されている.AMPAチャネルの挿入以外にも,スパインサイズの増大なども報告されている.
  • 樹状突起のケーブル特性の変化があるとする報告もある(dendritic plasticity).

ニューロンの生物物理 5-1 情報統合の場としての単一神経細胞

Initial Segment spike (ISスパイク):軸索起始部で発生.軸索へ伝導するスパイクの起源.
Somato-Dendritic spike (SDスパイク):細胞体,樹状突起で発生.
現在ではこれらの用語はあまり使われない?

  • 樹上突起は点素子か統合の場か?

点素子(point unit):樹状突起は均一で,シナプス入力を受け取って細胞体へ伝える場.

実際は…
樹状突起は細胞によって形態も異なり,場所によってその特性が不均一.
さらに膜は興奮性を持っており,時空間加算を複雑に行なっている統合の場である.

dendritic integration

ニューロンの生物物理 5-3 樹状突起の能動的性質

樹状突起スパイク研究の歴史

  1. ガラス微小電極法
    • 小さなSDスパイク?(細胞内記録法による計測)
    • SDスパイクは樹状突起を伝搬する.(細胞内記録法による計測)
  1. IR-DIC顕微鏡下での樹状突起パッチクランプ法
    • 細胞体発火によるスパイクの逆伝搬(back-propagation)
  1. 高速Ca2+イメージング法
    • 樹状突起Ca2+チャネル活性化によるCa2+スパイク

皮質錐体細胞,小脳プルキンエ細胞,嗅球僧帽細胞など多くの神経細胞樹状突起でdendric spikeが発生する.

スパイクの種別

  • 細胞体のスパイク:Na+スパイク(somatic spike)
  • 樹状突起スパイク:Na+スパイク(backpropagation)

          Ca2+スパイク(local dendritic spike)
            voltage-gated Ca2+ channelによる
            NMDA channelによる(NMDA spike)

樹状突起の電位依存性イオンチャネルの分布

  • 内向き

海馬CA1錐体細胞で,Na+チャネルは樹状突起に沿って均一に分布(Magee & Johnston, 1995).
Ca2+チャネルはタイプごとに異なった不均一な分布.

  • 外向き

海馬CA1錐体細胞で,2種類の電位依存性Kチャネルが存在する(Hoffman, 1997).
不活性化を示さないタイプは均一に,速やかな不活性化を示すAタイプKチャネルは先端へ行くほど高密度.

活動電位閾値下の膜電位変化において,T型Ca2+チャネル,A型Kチャネル,Ihチャネルなどの静止膜電位付近で活性/不活性化するチャネル群は特に重要.

Dendritic discrimination of temporal input sequences in cortical neurons

Dendritic discrimination of temporal input sequences in cortical neurons
Branco T, Clark BA, Häusser M.
Science. 2010 Sep 24;329(5999):1671-5. Epub 2010 Aug 12.

The detection and discrimination of temporal sequences is fundamental to brain function and underlies perception, cognition, and motor output. By applying patterned, two-photon glutamate uncaging, we found that single dendrites of cortical pyramidal neurons exhibit sensitivity to the sequence of synaptic activation. This sensitivity is encoded by both local dendritic calcium signals and somatic depolarization, leading to sequence-selective spike output. The mechanism involves dendritic impedance gradients and nonlinear synaptic N-methyl-D-aspartate receptor activation and is generalizable to dendrites in different neuronal types. This enables discrimination of patterns delivered to a single dendrite, as well as patterns distributed randomly across the dendritic tree. Pyramidal cell dendrites can thus act as processing compartments for the detection of synaptic sequences, thereby implementing a fundamental cortical computation.

  1. 2-photon un-caging, acute brain study.
  1. single dendriteにおいて,シナプス入力が"末端→細胞体方向"に入力される場合と"細胞体→末端方向"に入力される場合では,異なる時間加算性を持つ.
  1. さらに非線形応答を示す.(どちらの方向でもsupralinear.しかし"末端→細胞体"方向の方が大きい)
  1. この非線形性はAP5存在下では消失.(NMDAチャネル依存の可能性)

Pubmed link

Cp.14 - Concluding remarks

  • 樹状突起は多様な受動的,能動的膜特性を備えている.
  • 電位依存性チャネルはすべての神経細胞樹状突起から見つかっており,cell-specificな違いがタイプ,特性,分布に存在する.加えて受動的膜特性は細胞種によって異なり,さらにその位置も単一細胞内で異なっている.
  • 細胞種を越えた樹状突起の興奮性の機能についての普遍化は,異なる神経細胞で振る舞いが広範囲に渡ることが予想されるため困難である.
  • この多様性を研究することとその結果によって,我々は個々の神経細胞が特定の計算処理を行っている方法をより理解するだろう.

Cp.14 - Action potential bursting and dendritic excitability

強いシナプス入力によって活性化される樹状突起Ca2+スパイクは,バースト発火を引き起こす.

  • この理由は単純で,細胞体へ流れこむより持続する内向き電流が細胞体や軸索での複数の活動電位をトリガーするためである.
  • backpropagationは複数の方法でバースト発火に寄与する.ひとつめはbackpropagationによって生まれた,後脱分極(ADP)に寄与する電流が細胞体へ流れ戻ってくることによるもの(Lemon & Turner, 2000).ふたつめは樹状突起でのCa2+スパイク発生によるものである(Traub et al., 1994).

  ■ Fig. 14.11 同時に起こった樹状突起の脱分極とbackpropagationに応えて,樹状突起Ca2+スパイクはバースト発火を促進する

    • A: 皮質V層錐体細胞からtriple patch-clamp recording(soma*1,dendrite*2).樹状突起からはそれぞれsomaから400μm,770μmの位置で記録.
    • B: EPSP様の電流注入を遠位部電極で行った.各トレースの色は対応する色の電極から得られた膜電位変化を表す.
    • C: 閾値を超える電流注入をsomaに行い活動電位を発生させたところ,樹状突起では振幅が小さくなり,幅が広くなったbackpropagationが観察された.
    • D: BとCで行った刺激を5msの間隔を空けて組み合わせて刺激した.soma→dendriteと電流注入したとき,遠位部でのCa2+スパイクの発生に伴って細胞体でバースト発火が起こった.
    • E: 遠位部にBよりさらに強い電流注入を行ったところ,同様のCa2+スパイクが発生した.
  • backpropagationはシナプス入力によるCa2+スパイク発生を増強し,その結果として細胞体でバースト発火が起こる(Larkum et al., 2004など).このbackpropagationと樹状突起Ca2+スパイク間の相互作用は,ネットワーク活動のなかでの遠位シナプス興奮の細胞体への影響を大幅に増加させ(Qviedo & Reyes, 2002; Williams, 2005),また樹状突起Ca2+スパイクが効率的にNMDA受容体のMg2+阻害を取り除くことで,シナプス可塑性にも寄与する(Kampa et al.,2006; Lettzkus et al., 2006).

Cp.14 - Dendritic spikes and synaptic integration

もしスパイクが樹状突起で起きるなら,樹状突起のintegrative powerは最小化されるように思われる.なぜならば,(これまでのセクションで議論してきた)興奮/抑制を含む多くの時空間相互作用が,少数の興奮性入力によって起こる樹状突起スパイク発生によって否定されてしまうかもしれないからだ.

  • Lorente de Nó,Condourisら(1959)は『樹状突起にスパイクは発生するが,細胞体まで伝わらない』と予測した.樹状突起スパイクの効果はいくつかのシナプス入力と連合して脱分極を増加させることであって,必ずしも活動電位をトリガーするものでないかもしれない.
  • 個々の樹状突起の枝はそれぞれが樹状突起スパイクを発生させることができる,計算素子として振舞っているかもしれない.はじめ理論的な予測(Archie & Mel, 2000; Poirazi et al., 2003)がなされ,現在ではその可能性を示唆する実験データが少なからず報告されている.

  ■ Fig. 14.9 各枝での樹状突起スパイク発生は樹状突起統合の多層モデルを示唆する.

    • CA1錐体細胞細胞体から電位記録.caged-glutamateを用いたuncaing刺激.尖頭樹状突起のひとつの枝で,distributed(刺激点が広範に広がる)とclustered(刺激点が集中)のふたつのパターンで刺激する.各刺激の間隔は1ms.
      • A: 上:distributed刺激とclustered刺激で得られた膜電位変化.刺激が進んでいくと得られるレスポンスが増大する.下:それぞれの刺激パターンで得られた膜電位変化データに対して,一次微分した.
      • B: CA1錐体細胞斜上放線樹状突起の刺激点を示した図.赤点がdistributed,緑点がclusteredの刺激パターンでの刺激点.番号は刺激順を示す.
      • C: distributed,clustered各刺激による応答の予測/実測曲線.
      • D: Polskyら(2004)による発見の模式図.上:ふたつのシナプスがひとつの枝に乗っているとき,細胞体でのEPSP加算はsupralinearになる.下:ふたつのシナプスが別々の枝に乗っているとき,細胞体でのEPSP加算はほぼ線形になる.
      • E: 再構築した皮質V層錐体細胞(左)と三層モデルの模式図(右; Häusser & Mel(2003)による).赤の枝は尖頭樹状突起遠位部への入力,青の枝は傍細胞部への入力を示す.これらの入力どちらもが,ネットワークモデルの第一層を構成しており,それぞれの枝がAで示したような非線形加算処理を行う(シグモイド曲線が書かれた円がそれを示している).第一層の出力はふたつの統合領域に入力する.ひとつは傍細胞部の枝に近い部分(例えば細胞体,藍色で示した部分),ひとつは遠位尖頭樹状突起部に近い部分(例えば尖頭樹状突起のスパイク起始部,紫で示した部分)である.これら統合領域はネットワークモデルの第二層を構成する(シグモイド付きの大きな円で示す).第三層(図には示されていない)は軸索の活動電位起始部である.グレーの円は層と層の接続を表す.
  • 樹状突起の異なる部分をそれぞれターゲットとするシナプス入力同士が,興味深い方法で統合されているかもしれない.CA1錐体細胞において,尖頭樹状突起遠位部に特異的に投射している貫通線維入力の活性化は,尖頭樹状突起近位部に投射するシェファー側枝入力の活性化によって増幅されて細胞体,軸索まで伝搬する樹状突起スパイクを発生する(Jarsky et al., 2005).

  ■ Fig.14.10 シナプス入力の脱分極による樹状突起スパイク伝搬のゲーティング

    • NEURONを用いたシミュレーション.樹状突起の興奮性が低い海馬CA1錐体細胞モデルを用いた.
      • A: perforant path(PP)のシナプスの10%を活性化させたときの脱分極のピーク時のカラーマップと樹状突起膜電位変化のプロット.樹状突起遠位部に樹状突起スパイクが発生しているが,細胞体までは伝搬しない.
      • B: 同様にschafer collateral(SC)のシナプス3%を活性化させた.SCはより細胞体に近い部分で尖頭樹状突起シナプスを形成している.近位部ではEPSPが観察された.
      • C: PPのシナプスを10%,SCのシナプスを3%同時に活性化させたとき.遠位部で起きた樹状突起スパイクは近位部のシナプス入力によるEPSPによって消失することなく伝搬し,細胞体を発火させる.