Cp.14 - EPSP shunting by backpropagating action potentials

backpropagationはシナプス電位ともまた相互作用する.

  • 活動電位を発生させるのに必要なコンダクタンスは大きく,ゆえに見た目の膜抵抗は相当な低下を生み出す.そしてそれは軸索と細胞体に主に局在化されている.この短絡が効果的にこれらの部分の膜時定数を短くし,膜キャパシタンスから電流を吸い取っている.このようにして活動電位はEPSPやIPSPの振幅を減少させている.
  • 皮質V層錐体細胞で,単発の活動電位は基底樹状突起への入力によるEPSPを80%以上抑圧する(Häusser et al.,2001).活動電位がどの程度シナプス電位を抑圧するかは,活動電位によって活性化される局所コンダクタンスの大きさだけでなく,シナプスコンダクタンスのキネティクスとその位置にも依存する.その結果として,遅い時定数のシナプスコンダクタンス変化(例えばNMDA受容体を介したもの)によって生まれるシナプス電位は短絡に対する感受性が低い.

Cp.14 - Subthrethold attenuation by K+ channels

EPSPによるK+チャネル活性化の効果もまた考慮されるべきである.閾値下のEPSPであっても電位依存性K+チャネルは活性化することが示されている.

  • ふたつの別々のイオン導入電極によって(グルタミン酸注入で)2ヶ所にEPSPを起こしたところ,ふたつの電極の相対的な位置に依存してEPSPの加算は線形もしくは非線形(sublinear)になった(Cash & Yuste, 1998;1999).K+チャネルブロッカーの4-APを用いた実験で,ふたつのEPSPが加算されるときにはA-type K+チャネルが活性化されていることが示された.
  • caged-glutamateを用いた海馬培養細胞における同様の実験では,ふたつの刺激間隔が10ms以下のとき,ふたつめの刺激はTTX-sensitiveコンダクタンスによって増強され,もう少し長い間隔(15-100 ms)のときは電位依存性K+コンダクタンスによって抑圧される(Margulis & Tang, 1998).
  • 閾値下EPSPによるNa+, Ca2+チャネルの活性化の効果は,電位依存性K+チャネル,特にA-typeチャネルによって弱められ,それはCA1尖頭樹状突起において高密度であることが明らかにされている(Hoffman et al., 1997).

Cp.14 - Subthreshold amplification of EPSPs by Na+ and Ca2+ channels

樹状突起におけるチャネルのタイプ,密度,分布に依存して,電位依存性コンダクタンスによる微妙な方法でPSPは増強かつ形成されるかもしれない.

  • CA1錐体細胞において,(細胞体から)遠くに誘起されたEPSPは傍細胞体部の持続するNa+電流によって増幅される(Andreasen & Lambert, 1999).またTTX-sensitiveな電流の増幅が,樹状突起への持続的な(約1s間)グルタミン酸イオン導入の結果として細胞体から記録された(Schwindt & Crill, 1995).この増幅は細胞体(とたぶん軸索も)がvoltage-clampされている間起こり,TTX-sensitiveな電流は樹状突起に現れるので,これらの実験条件下では樹状突起の持続的Na+電流を通してシナプス活性化が増幅されている可能性を示している.
  • IPSPもまた軸索の持続的Na+電流によってモジュレーションを受ける(Stuart, 1999).
  • 海馬CA1錐体細胞樹状突起からの記録でEPSPによってNa+,Ca2+チャネルが直接活性化されることが明らかにされている(Magee et al., 1995).

Cp.14 - What are the functions of dendritic excitability?

backpropagationと樹状突起スパイクはいくつかの機能を担っている.

  • 即時的効果のひとつは,電位依存性Ca2+チャネルの活性化およびMg2+ブロックが解除されたNMDAチャネルを通した樹状突起内Ca2+濃度上昇(を誘発すること)である.
  • 他の重要な機能である樹状突起の興奮性(の制御)は,シナプス入力が樹状突起の膜電位に影響する方法を変えること,つまりシナプス入力によって活動電位発生を誘発する方法に影響を与えることである.

Cp.14 - Dendritic spike propagation

樹状突起で発生したスパイクは細胞体,軸索まで伝搬しにくい.ただしいくつかの条件のもとでは順伝搬が起こりうる.

※ この章ではFig. 14.6を参照する点が多々ある.

  • 樹状突起スパイクが細胞体まで到達できるかどうかは,樹状突起の形態,チャネル密度,興奮/抑制シナプスの時空間分布を含むいくつかの要素に依存する(Segev & Rall, 1998).
  • 小さな直径の樹状突起の枝は大きな直径のそれより高い入力インピーダンスを持ち,また相対的に小さなシナプスコンダクタンスによってでも樹状突起スパイク発生のための閾値に達しやすい(Nicholson et al., 2006).小さな樹状突起から大きな樹状突起へと樹状突起スパイクが伝搬するとき,それが失敗する傾向がある理由は,大きな樹状突起閾値まで脱分極させるにはより多くの電流が必要とされるためである*1.たとえ娘枝と親枝が同じ径であったとしても,分岐点では同じ径の枝を二本(親枝一本ともう一方の娘枝一本)を興奮させないといけないため,樹状突起スパイク伝搬は失敗しやすい*2
  • 錐体細胞樹状突起スパイク伝搬における放線斜上分岐の影響は,スパイク発生箇所と斜上分枝の興奮性に依存する.樹状突起スパイクがmain apical dendriteを伝搬してきた時に,斜上分枝が強い興奮性を持つか弱い興奮性を持つかに依存して スパイクの順伝搬を抑圧または亢進する可能性がある*3
  • 抑制性シナプス入力はCa2+スパイクに影響することが示されている.海馬の細胞では,スパイク発生抑制の効果は抑制性シナプス入力の位置に依存する.樹状突起への(抑制)入力は樹状突起Ca2+スパイクを抑制する一方,傍細胞体抑制は細胞体の連続発火を抑圧する(Miles et al., 1996).皮質V層錐体細胞では,distal dendriteでのCa2+スパイクは,抑制性入力による過分極,短絡によってだけでなく,樹状突起のCa2+チャネルのGABABレセプターによって仲介される抑制によっても抑圧される(Perez-Garci et al., 2006).
  • in vivoでの活動電位の伝搬(backpropagation)と樹状突起スパイク(forward-propagation)がin vitroでの状況と同じかどうかはかなり重要な問いである.明確な答えはまだ明らかではないが,Ca2+イメージングと電位記録によって,in vivoでもbackpropagationとCa2+スパイクが観察されている(Kamondi et al., 1998; Walters et al., 2003).加えてin vitroでのdynamic clampを用いた実験では,樹状突起の興奮性が活動電位発生に顕著な影響を与えることが示されている(Williams, 2004).
  • 他にも発火履歴,脳の状態(brain state),内的な膜特性の可塑性がスパイクの順伝搬,逆伝搬を変化させることが報告されている.
    • backpropagationは樹状突起のNa+チャネルを不活性化することで,樹状突起スパイクの発生を減少させる(Golding & Spruston, 1998).
    • CA1錐体細胞で,ムスカリン受容体の活性化がbackpropagationを増加させる(Tsubokawa & Ross, 1997).
    • シナプス可塑性は,A-type K+チャネル活性が減少して樹状突起の興奮性が増すことによって引き起こされるかもしれない(Frick et al., 2004).

*1:Fig. 14.6B1参照

*2:Fig. 14.6B2参照

*3:Fig. 14.6B3参照

Cp.14 - Effects of synaptic excitation and inhibition on action potential backpropagation

Backpropagationに影響を与える要素としてシナプス興奮と抑制もまた重要な要素である.

  • CA1および皮質V層錐体細胞で,樹状突起シナプス(入力による)脱分極はbackpropagationの尖頭樹状突起への伝搬を増幅させることが示されており(Stuart & Häusser, 2001など),一方シナプス入力によるGABA作動性抑制コンダクタンス(の増加)はbackpropagationを制限する(Tsubokawa & Ross, 1996など).

  ■ Fig. 14.8 EPSPによるbackpropagationの増強

    • A: 上;somaへの電流注入によるbackpropagation.somaから720μm離れた樹状突起での記録.中;同様の位置でのEPSP.下;backpropagationとEPSPをペアリングしたときの記録.黒線が実測値,グレー線が線形加算した波形を示す.
    • B: 細胞体からの距離によって変化する,EPSPとペアリングさせたbackpropagationの増幅.control(backpropagation単体)を1とした比で表示.細胞体から450μm以上の距離のデータはbackpropagationの電位が20mV以下のものだけだった(故にratioが急上昇しているように見える?).
    • C: 細胞体からの距離が異なる点のbackpropagationの振幅.0-420μmまでは一次指数関数でfitできる.

Cp.14 - Effects of dendritic voltage-gated channels on action potential backpropagation

不均一なチャネル分布が,樹状突起における活動電位伝搬に対する理解をより一層難しくする.

  • Hoffman(1997)らはCA1錐体細胞尖頭樹状突起のA-type K+チャネル密度が細胞体から距離が離れるにつれ増加すること,加えてdistal dendriteのK+チャネルは細胞体およびproximal dendriteに比べて活性化電位が低いことを示した.

  ■ Fig. 14.7 CA1錐体細胞でのbackpropagationと樹状突起スパイクへの延長されたNa+チャネル不活性化が与える効果

    • A: somaとdendriteでの同時patch clamp recording. somaに電流注入を行い,複数のスパイクを誘起した.上;樹状突起の膜電位変化.backpropagationの振幅は徐々に減少する.下;細胞体の膜電位変化.スパイクの振幅はほぼ一定.
    • B: 樹状突起からcell-attached patch記録.短い脱分極パルスをコマンド電位として入力すると,TTX-sensitiveな内向き電流が観察される.その振幅は漸減し,それは不活性状態(のNa+チャネル)が蓄積することによる(つまり不活性化状態から可活性状態への遷移が遅い).コマンドの入力をやめてから500ms後に再度テスト刺激をおこなっても,不活性状態からは38%しか回復していなかった.
    • C: somaとdendriteでの同時patch clamp recording. backpropagationが樹状突起スパイク発生を抑制する.上;放線層(を刺激して誘起した)シナプス入力によって観察される樹状突起スパイク.中;シナプス入力に先行して細胞体に電流注入(prepulse)を行う.細胞体の発火とシナプス入力の遅れが100msのとき,樹状突起スパイクが発生しない(図に示されているのはおそらくbackpropagation).下;prepulseとシナプス入力の遅れを750msにしたとき.シナプス入力によって樹状突起スパイクが観察される.このprepulseによる樹状突起スパイクの抑圧は,prepuleseに対するシナプス入力の遅延が500ms以内のときに起こる.
  • Na+チャネルの不活性化によるbackpropagationの振幅の減少は,伝搬に好ましくない分岐構造と同時に,分枝へのbackpropagationの流入不全を起こすことに寄与しているかもしれない.
  • backpropagationの振幅は他の要素からも影響を受ける.例えば細胞が高頻度活動をしている間,backpropagationはより樹状突起へ流れ込みやすくなる.