Cp.14 - Excitaion-inhibition interactions in dendrites

  • 抑制は,シナプス統合における興奮性シナプス入力の時空間加算を制限する別な要素である.
  • 抑制はまた,興奮性入力の時間加算の時間窓を制限することで,スパイクタイミングにも影響する.
  • EPSPの樹状突起統合と同様の原則がIPSPの場合にも適用できる.

 ■ Fig 14.3 興奮-抑制間の位置関係がシナプス統合に影響する

    • NEURONによるシミュレーション.図に示された場所に興奮/抑制入力する.抑制入力は興奮入力より5 ms前に入力する.抑制入力の反転電位(Erev)は静止膜電位(Vrest)と等しいとする(つまり抑制入力単体では膜電位変化は起きない).各トレースは該当位置の入力によるsomaでの膜電位変化で,実線は抑制入力と興奮入力,破線は興奮入力のみを行った.
      • A: 興奮,抑制入力ともにsomaに行った.上のグラフは膜電位,下のグラフは抑制入力のコンダクタンスとシナプス電流の変化を示す.
      • B: 興奮入力をそれぞれbasal, apical dendriteに,抑制入力はsomaに行った.
      • C: 興奮入力はBと同様の位置へ,抑制入力はapical dendriteの真ん中へ入力した.apical側の興奮入力は大きく抑圧されるが,basal側はそれほど影響されない.
      • D: 興奮入力はBと同様の位置へ,抑制入力はapical dendrite先端,興奮入力のひとつと同じ位置へ入力した.このときbasal側へはまったく影響しない.また抑制入力の位置を,別なapical dendriteの枝へ移して同様に実験したところ,apical側の興奮入力によるEPSPの減衰は大きく減った.
  • このシミュレーションの結果は,『抑制は,自身の抑制性シナプスコンダクタンスを変えることが最も効果的である』ということ.

Cp.14 - Spatial and temporal integration

 ■ Fig 14.2 樹状突起構造とシナプス位置がEPSP加算にあたえる影響

    • NEURONを用いたシミュレーション.20 msの間隔で2発のシナプス入力を行う.単一のシナプス入力では6 mVのシナプス電位が得られるようにする.
      • A: 樹状突起を持たない,細胞体のみの細胞を考える.2発の入力は細胞体へ.2発目の入力によって得られたシナプス電位は1発目のそれと比べると1.37倍だった.
      • B: Aの場合に基底・尖頭樹状突起を加える.入力位置はAと同じ.シナプス電位のdecayがAより早くなり,2発目のピークも1.27倍と減少した.
      • C: Bの場合からシナプス入力位置を尖頭樹状突起中央に移す.Bとは逆にdecayがゆっくりになり,2発目のピークは1.40倍になった.
      • D: 最も大きな加算性を示したパターン.シナプス入力をひとつは基底樹状突起側へ,ひとつは尖頭樹状突起先端部へ入力した.2発目のピークは1.55倍だった.
  • これらのシミュレーションは受動的ニューロンにおけるシナプス加算において,以下の3つの重要な点を示す.
    1. 樹状突起の存在は近いシナプスのEPSP decayを増大させる.
    2. 樹状突起EPSPのケーブルフィルタリングはsomaで計測されるEPSPの時間経過をゆっくりにし,そしてsomaでの時間加算性を増大させる.
    3. sublinear加算はシナプスが電気的にお互い近い位置に存在することによると予想されるが,入力が電気的に分断されていると最小となる.

Cp.14 - Resting membrane properties

※ 黒本pp.22あたりが参考になる.

  • τmは膜容量と電位に依らないリークコンダクタンスによって決まる.
  • いわゆる受動的膜性質はより正確に言うならば静止膜性質とするべきで,その大部分が静止膜電位で開く電位依存性チャネルによって決まる.

Cp.14 - Experimental estimates of passive electrical properties

  • Cmは約1 μF/cm^2の生物学的定数だと広く考えられており,実験的にも種々の神経細胞でそのように確認されている.
  • Rmは多くの種類の細胞で調べられ,細胞腫によってその数値は非常に広範囲に渡る.
  • Riは様々な実験で調べられ,哺乳類では70-500 Ωと予想されており,モデル研究でも70-220 Ωと言われている.最もらしい見解は,樹状突起の一過的な電位変化フィルタ(?)特性はRiによるということだが,不明な点も多く,加えてRiは同じ細胞でも樹状突起の場所によって異なる可能性が無視できない.
  • ことさら大きくシナプス高電位の加算に影響する要素は膜時定数(τm)で,これはRmCmによって決まる.これによって膜電位変化の遅い成分(減衰)が決まる.つまり時間加算の窓を規定している.

Cp.14 - Passive electrical properties of dendrites influence synaptic integration

  • 実験で得られたデータから,ニューロンの受動的電気性質を洞察する.(このsectionを理解するのに,”『ニューロンの生物物理』, 宮川 博義・井上 雅司 著”(以下”黒本”)pp.22-24, 148-153が参考になる)
  • 次の3つの受動的電気性質が樹状突起の電気的構造に寄与する.
    • 膜抵抗(Rm),膜容量(Cm),細胞内抵抗(Ri)
  • 高いRiと低いRmは受動的に樹状突起を伝搬するときのシナプス電位の減衰量を増やす.これは活動電位発生部から遠いところでより顕著.

 ■ Fig.14.1 Ri, Rm, CmがEPSPの減衰に及ぼす影響

    • NEURONを用いたmodel study. シナプス入力位置とRm, Riを変化させた.
      • Vsoma:somaの膜電位.Vsynシナプスしている部分の膜電位.
    • 統制条件(パネル中央列)で,シナプス入力位置をsoma(A)からmid-apical dendrite(B)へ動かすと,somaでのシナプス電位は小さくなる(約2:1).これは樹状突起の膜キャパシタへの充電が膜抵抗を通して失われるため.さらに入力部位を遠くにする(C)と,入力抵抗は高くなり,キャパシタンスは小さくなるため,局所的なシナプス電位は高くなり,樹状突起-細胞体間のEPSP減衰は劇的に大きくなる(約10:1).
    • Rmを小さくする(パネル左列)と,入力部位でのシナプス電位にはそれほど影響しないが,someでのEPSPの大きさに対しては大きな効果がある.
    • 皮質と海馬の錐体細胞モデル研究から,コンダクタンスの不均一な分布が存在し,apical dendriteの先端は電流が漏れやすい可能性が示唆されている.
    • Riを小さくする(パネル右列)と,シナプスから放射状に流れる電流が大きくなる.これによってEPSPの減衰は小さくなる.

Cp.14 - Summation and propagation of PSPs depend on dendritic cable propertis

  • ほとんどのニューロンでは静止膜電位は閾値よりも過分極しており,単一EPSPではこのギャップを超えられない.
  • 活動電位を発生させるためには,多数のシナプス入力の加算が必要である*1
  • シナプス入力の加算を考えるうえで重要なファクターは,樹状突起受動的電気的性質電位感受性チャネルのふたつ.

*1:例外もあり,プルキンエ細胞-登上線維間シナプスでは,ひとつのシナプス入力でバースト発火が起こる(Llinas & Sugimori 1980)