Cp.14 - Effects of morphology on action potential backpropagation

  • backpropagationが樹状突起を伝搬するとき,活動電位が軸索を伝わるのと同様にその形態が影響する.GoldsteinとRallはdiameter(直径),tapering(先細り),branching(枝分かれ)が軸索における活動電位の伝搬に重要な要素であると述べた.
  • GoldsteinとRallは活動電位は枝分かれ部分で消えやすいことを示し,枝分かれ部の構造をGR(geometric ratio)として定量化した.
    • GR = ��dj^(3/2)/da^(3/2) da;親枝(活動電位が伝わってくるほうの枝)の直径,dj;娘枝(活動電位が伝わっていくほうの枝)の直径

  ■ Fig 14.6 スパイク伝搬における樹状突起の枝分かれの効果(この図の解説は”Dendritic spike propagation”の章でも詳細に触れられる)

    • A:スパイクのbackpropagationの場合.
      1. GR≦1のとき.backpropagationは枝分かれを越えてうまく伝わる.
      2. GR>1のとき.backpropagationはうまく伝わらない.
      3. oblique branch(分かれる枝の経がばらばら?)のとき.膜の特性やその先で興奮性入力を受けているか抑制性入力を受けているか,長さは長いか短いかなどの要因によってどのように伝わるかが決まってくると考えられる.
    • B:スパイクのforwardpropagationの場合.
      1. GR≦1のとき.樹状突起が細いと少ない電流でスパイクを起こすことができるが,分岐部の閾値を超えることが難しいため,細い枝から太い枝へのスパイク伝搬は失敗する傾向にある.
      2. GR>1のとき.樹状突起スパイクが太い枝に発生して順伝搬するとき,B1と同様に分岐部で消えてしまう傾向にある.1と2のケースでは,シナプス入力によって膜電位が脱分極していると,樹状突起スパイクの順伝搬の効率は良くなるだろう.
      3. oblique branch(分かれる枝の経がばらばら?)のとき.A3の場合と同様.

細胞種によるbackpropagationの特徴

  • CA1錐体細胞の場合.distal dendriteにおいて,(amplitudeが)相対的に大きいときと小さいときがある.その中間のamplitudeがないことは,樹状突起においてbackpropagationの消失点が細胞体から約300μm付近にあることを示唆する(Golding et al., 2001).またモデル研究の結果からbackpropagationの消失はNa+,K+チャネル密度に依存するだけでなく,消失点における枝分かれの数も影響すると示している(Golding et al., 2001).
  • 皮質V層錐体細胞の場合.CA1錐体細胞と同様に,細胞体の発火がdistal dendriteに与える影響は(CA1錐体細胞と同じ理由で)変化しうるし,他にも主たる尖頭樹状突起からの斜上分岐の数が影響することが報告されている(Larkum et al., 2001など).

※ これら樹所突起の形態が活動電位の伝搬にどのように関与するかは,1960年代半ばにすでにRallによって予見されていた事は特筆するに値することである.

Cp.14 - Action potential backpropagation

  • これらの細胞での逆伝搬活動電位の大きさは細胞体から離れるに従い減衰するが,活動電位の受動伝搬によるものではないと予測されている.活動電位の逆伝搬は電位依存性Na+チャネルによるものだと考えられており,逆伝搬活動電位の減衰は,非減衰伝導を生み出しているNa+チャネル密度が非常に低いことによる可能性がある.
  • Na+チャネル密度分布は細胞種によって異なっている.逆伝搬活動電位はシナプス入力,神経修飾状態,または長期活動依存的可塑性によって調節を受ける可能性が示唆されている(Hoffman & Johnston 1999; Stuart & Häusser 2001; Frick et al. 2004).

Cp.14 - Propagation of action potentials and dendritic spikes

活動電位は様々な要因によって影響を受ける複雑な方法で樹状突起を通って伝搬する.この章では軸索で発生した活動電位と樹状突起で発生した活動電位が,樹状突起の形態,電位感受性チャネル特性,シナプス抑制から受ける効果について考える.

Cp.14 - Spikes can be generated in dendrites

  • いくつかの条件下では,樹状突起もスパイクを発生する.
  • その存在は,CA1神経細胞尖頭樹状突起で細胞体/軸索集合スパイクに先行する発火現象としてfield potential recordingによって初めて示された.
  • 近年の皮質および海馬スライス,in vivo実験から,樹状突起の膜電位依存性Na+およびCa2+チャネルが再生的なスパイクを発生させることを報告している.

 ■ Fig 14.5 樹状突起スパイクと軸索スパイクとの関係

    • A: 皮質V層錐体細胞からsomaとdendriteでsimultaneous patch-clamp recording.皮質II/III層を電気刺激した.1番上; soma/dendriteともに閾値下のEPSP.上から2番目; somaでの発火無しにdendriteが発火.下から2番目; somaでの発火とは無関係に樹状突起スパイクが発生.1番下; somaでの発火に先行して発生する樹状突起スパイク.
    • B: 皮質V層錐体細胞からsoma,dendrite,axonでsimultaneous triple patch-clamp recording.皮質II/III層を電気刺激した.上;somaでスパイクが発生する強度で刺激.下;さらに強い強度で刺激すると,soma/axonでのスパイク発生に先行して樹状突起が発火する.
  • 短いcurrent injection,caged-glutamate刺激→TTXで阻害される数msの幅の狭いスパイクが起きる(Na+スパイク).一方,長いcurrent injection,caged-glutamate刺激→TTXに阻害されず,Ca2+チャネル阻害薬で消失する,幅の広いスパイクが起きる(Ca2+スパイク).
  • シナプス入力による樹状突起スパイクの発生については,薬理学的な研究が難しく進んでいない.しかし入力強度,記録位置によってその幅が変化することなどから,Na+,Ca2+チャネルが(複合的に)寄与していると考えられている.
  • 皮質V層錐体細胞では,樹状突起の細胞体に近い部分ではNa+チャネルによる樹状突起スパイクがほとんどで,遠い部分では電位依存性Ca2+チャネルによるものが多くなる(Schiller et at., 1997など).しかし前頭前野ニューロンではこの関係が反転する(Seamans et al., 1997).さらに皮質V層錐体細胞では尖頭樹状突起シナプス入力すると,NMDAチャネルが主な成分である樹状突起スパイクが観察されるらしい(Schiller et al., 2000).ただしこのNMDA mediatedなスパイクはでん依存性チャネルによるスパイクと異なり,グルタミン酸の結合が必要であるためシナプス入力位置を越えて広がることはない.
  • 錐体細胞では樹状突起Na+/Ca2+スパイクはsomaおよびaxonまで完全には伝わらない.けれどもNa+スパイクに比べてCa2+スパイクの方が広がる.
  • 軸索の閾値が他より低いことは数々の証拠が示唆するが,いくつかの状況下では高い閾値を持つ樹状突起がまず始めに発火する.それは樹状突起が軸索よりは弱いが興奮性を持っているからで,樹状突起スパイクは相対的に大きく速い局所的なシナプス入力があった場合にのみ発生する.それはあまり細胞体まで伝わらず,活動電位の発生に関わらないことが多いことから,能動的シナプス統合の一形態であり,シナプス統合の最終地点は(やはり)軸索であると考えられる.

Cp.14 - Action potentials are initiated in the axon

  • 活動電位は”initial segment spike(IS spike)”と”somato-dendritic spike(SD spike)”成分から構成され,ISスパイクは常にSDスパイクより先に発生する.

 ■ Fig 14.4 軸索での活動電位発生

    • A: 小脳プルキンエ細胞の軸索と細胞体でのsimultaneous patch-clamp recording.平行線維(上)と登上線維(下)をシナプス刺激した.どちらの場合も軸索で先に活動電位が観察され,これは直接的に軸索で活動電位が発生することを示している.
    • B: 黒質ドーパミン細胞の樹状突起と細胞体でのsimultaneous patch-clamp recording.計測した細胞のうち,樹状突起が先に発火するものと細胞体が先に発火するものが半分ずつ存在した.しかしバイオサイチン染色を用いて構造を観察したところ,樹状突起が先に発火するタイプの細胞は樹状突起から軸索が生えていることが明らかになった.
  • いくつかの実験から,細胞種によって最初の発火が軸索起始部(axon initial segment)で起こるものとひとつめのランビエ絞輪で起こるものが方向されており,どちらが本当かはまだ議論がある.

Cp.14 - Dendritic voltage-gated channels contribute to synaptic integration

  • シナプス電位は線形もしくはわずかにsublinearな加算性をもつことが言われているが,樹状突起は明らかに受動的でなく,静止膜電位での電位依存性チャネルは能動的でかつ樹状突起の統合的複雑性に寄与している.
  • 電位依存性チャネルの性質を知るのに,以下のふたつの大きな壁が存在する.
    1. 樹状突起の構造が,実験的に計測を行うには小さすぎること.
    2. ニューロンの種類が異なると,チャネルの分布も異なること.

Cp.14 - Compensating for dendritic attenuation

  • 細胞体中心理論のひとつの予測は『シナプスの活動電位に寄与する能力はsomaから離れるに従って減少する』というものである.
  • この,somaに近いシナプスと遠いシナプスの圧倒的な不均衡を軽減する要素はふたつあり,『voltageの抑圧はchargeの抑圧よりかなり大きい』ことと『少なくともいつらかのシナプスが距離による不均衡を相殺するために自身のコンダクタンスを加減しているかもしれない』ことが挙げられる.